未来は今…。

 つい先日、米サンフランシスコで無人走行のタクシー車両が暴徒により無惨に破壊され放火されるという事態が発生しました。ことの詳細や背景は不明ですが、思い出したのは半世紀以上も昔、かの手塚治虫の名作「鉄腕アトム」にあった一エピソードなのでした。

 そもそもは’66年のアニメ化第一作の終盤に「ベーリーの冒険(伝説)」としてオンエアされたもので、アトムとウランが訪れたロボット博物館で空白になっている展示ブースの由来と事情を聞くという展開だったのですが、その後アニメの放送終了を承けてサンケイ新聞で連載された「アトム今昔物語」で「ロボット・ベイリーの惨劇」として改めて描かれたのです。

 大まかなストーリーは二十一世紀前半、米西海岸でそれまでも様々な迫害を受けていたロボットのベイリー(ベーリー)がそれにめげず市民権を獲得すべく市役所に必要書類を提出し認められたものの、直後市役所の門前でロボットの市民権獲得に反対する暴徒の集団の襲撃で無惨にもバラバラに破壊され、ひそかにベイリーの庇護者から警護を依頼されていたアトムも何の手出しも出来ずその惨劇を呆然と見つめるのみだったというものでした。

 新聞掲載はあのマーティン・ルーサー・キング牧師暗殺事件の直後であり、作者手塚治虫の強く苦い思いが明確に見て取れるタイミングでした。雑誌連載時の「鉄腕アトム」でも「アトラス」「ブラックルックス」など、差別問題を取り上げたエピソードは少なくありませんでしたから。

 無人の自動運転タクシーが焼き討ちにされる映像を観て、今なお解決を見ない人種間の差別問題も含め来るべき未来に対し暗然たる気持ちにさせられるのは果たして当方だけなのでしょうか…。