「7月4日に生まれて」(’89米)のことなど。

Masculin:ちょうど今日はこれの原題にもある"4th of July"ですけど、公開当時、ご覧になりました?

Féminin:…ううん、確か彼と暮らしてた頃だし、ハリウッド映画にはあんまり関心がない人だったから。貴方は観たの。

M:いや僕も観なかったんですよ。ただ当時小耳に挟んだ話で、映画館から出て来た愛すべき若いカップルがこんなやりとりをしてたとか

 「…ねぇ、結局7月4日って誰の誕生日なの?」

 「ウ~ン、多分トム・クルーズのじゃあないの?」

 実際のトム・クルーズは7月3日生まれだそうです。

F:何だか三十年以上昔だけど、最近のお話みたいね。映画の原作者ロン・コーヴィックもお気の毒だわ。だけど後で観た印象では良くも悪くも監督オリヴァー・ストーンの色が強かったみたいで…でも誕生日で様々な運命に翻弄されると言っては大袈裟だけど、影響はあるみたいね。

M:そうですね。ボクの知り合いでは1月15日の成人の日生まれだったんで「成」の字が名前にあったんですけど、ハッピーマンデー制度とか称する役人の手前勝手な都合で第二月曜日に変わったもので自分のアイデンティティを失ったって嘆いてた奴がいましたね。

F:私の知り合いには2月11日の建国記念の日生まれで、てっきりそっち側なんだと決めつけられるってこぼしてたひとがいたわ。ご本人はリベラルなんだけど。

M:ボクの同級生には3月3日生まれの奴もいましたね。ひょろっとした男で絵本作家志望だったけど、大学時代にホテルでバイトしていて、ブイヨンの大鍋に落ちたとか…幸い空っぽだったそうだけど達者かなぁ。

F:私の同級生にもいたわ、5月5日生まれの娘が。いかにも似つかわしいボーイッシュでバレー部のキャプテンやってたけど。ちょうど「サインはV」や「アタックNo.1」の頃ね。結構後輩の娘なんかからはモテてたみたい。

M:大学の頃だけど、6月6日生まれと知れておい身体のどこかにあざがあるんじゃないかなんてからかわれてた奴が…すぐにダミアンてあだ名が付きました。

F:やっぱり同級生で10月10日生まれの娘がいたの…高校に上がった頃から、どういうわけか自分の誕生日を恥ずかしがってたけど(笑)。

M:10月26日の原子力の日生まれを自慢してる奴もいましたねえ…体格の立派な男だったけど。今や肩身が狭いだろうなぁ…。

F:…ねぇ、そう言ってるけど、アナタだってよりにもよって1月1日生まれじゃない。結構おかしなエピソードには事欠かないんじゃなかったかしら。小さい頃はお誕生日プレゼントもお年玉もどうかしたらクリスマスも一緒なんで損した気持ちだったって。

M:そうでしたねえ、それを日本中がお祝いしてくれてるのよなんて祖母と母と二人がかりで言いくるめられて。また病院と親しくなってから、入院中はもちろん外来での採血や心電図やレントゲンやらのつど、姓名と生年月日を言わされるんですよ。すると半分くらいのナースや検査技師さんが「あら、うふっ♡」って反応を。こっちも慣れっこだから「えぇ、生まれつきなんです」とか「でも戸籍上日本人で最多の誕生日は元日なんですよ」なんて軽口を。

F:そうらしいわね、元日前後の別の日に生まれても元日として届け出る人が少なくないって…昔お母様から聞いたわ。アナタは間違いなく元日の夕方4時に生まれたって。お昼過ぎに柱時計のネジを巻いてて産気づいたのよって…しかも予定日通りで。

M:そんなことまでお姉様に話してたんですか。ふ~ん、それじゃ僕も昔お父様からうかがったとっておきのネタを。実はお姉様のお誕生日は…。

F:…ワァやめて!ハイ、アナタの好きなティオ・ペペ、これ呑んで気を取り直して…。

(Fin)