半世紀の時を経て。

Masculin:いやぁ、今NHKの「うたコン」観てて、感無量だったんですよ。お分かりでしょう?

Féminin:うん、私もオープニングのささきいさおさんの「宇宙戦艦ヤマト」を聴いてビックリしてたの。半世紀前と同じキーで朗々と…見事な歌唱だったわ。「ヤマト発進!」からも五十年なのね。

M:それでまた思い出したんですけど同じちょうど半世紀昔の’74年6月、日生劇場で「ロミオとジュリエット」があったんですよ。六代目染五郎(現二代目白鸚)のロミオと中野良子のジュリエット。何よりアングラ演劇の旗手と目されていた故・蜷川幸雄が初めて商業演劇の演出を手掛けるって話題で。そこにジュリエットの許婚パリスで佐々木功(当時)が出てたんです。

F:うん、その舞台のことは私も覚えてるわ。蜷川さんがアングラの仲間や支援者から裏切り者呼ばわりされて良くも悪くも話題になって…また前の年に知り合って一緒にコンサートやら映画やらあちこち出かけてた誰かさんがどういうわけか誘ってくれなかったのもね。

M:…いやぁそれはウチの母も観たいって言うんで…しかも高麗屋さんの関係で母にチケットを取って貰ったんで。

F:だったらいっそワタシも誘ってくれてお母様に紹介してくれれば…あっそうだわ、確か中野良子さんて好きだったんじゃないアナタ。だから私に声をかけずに。

M:…いやぁまあ確かにね当時。でも純粋に「ロミオとジュリエット」が観たかったんですよ舞台で。ほらゼッフィレッリの映画やベルリオーズの劇的交響曲チャイコフスキーの幻想序曲、プロコフィエフのバレエなんかは知ってたけど…映画「ウエストサイド物語」もね…そう言えば前に’88年のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭でバーンスタインがそのベルリオーズの「ロメオ〜」抜粋のリハーサルを学生たちのオケにつけてる映像を観たんです。

F:…何だか話を逸らそうとしてるみたいね…まあ良いわ。昔からのお得意の手ですものね。ハイどうぞ。

M:…そこでレニーはまず学生たちに

 「君たち『ロミオとジュリエット』の舞台を観たことあるかね?」と訊いたんですけど無反応。次いで

 「じゃあゼッフィレッリの見事な映画は?」と問うても同じくシーンで。

F:ウ~ン、それはビックリね。私はゼッフィレッリの映画を中学時代にロードショーで同級生の娘とダブルデートで観たし学園祭で上演したりも…その頃の学生なら’60年代半ばの生まれかしら。音楽学生って意外に自分の専門分野以外に興味が薄いのは洋の東西を問わないのかしらね。まあレッスンで忙しいんでしょうけど。

M:続けてレニーが

 「じゃあ『ウェスト・サイド・ストーリー』は?」と訊くと大半の学生から大歓声が…みんな指揮台にいるのがレジェンドの作曲家だと知ってたんでしょうね。でもレニーは照れくさそうに

 「同じ話なんだよ(same story)」と。

F:ハイハイ結構なエピソードありがとうございます。何だかんだ言ってズルいのは知り合ったばかりの高校生の頃からだったけど相変わらずなのね…ついでだから私がそのダブルデートでゼッフィレッリの映画を観た時のお話をするわね。中三だったけど同級生の娘がアナタの先輩たちと観に行くから付き合ってって…高二の人たちだったから五年先輩かしらねアナタの。映画は良かったけど、ほらふたりのベッドシーンでオリヴィア・ハッセーの胸があらわになるでしょ。あそこで男子ふたりはドギマギしてるし私も一緒の娘もスレンダーだったから同じく。バルコニーの場面でオリヴィアが前のめりになると私たちはコンプレックス感じちゃって…最近#Metooで取り上げられてたけど。まあ今さら大昔のことをほじくり返すのは止めましょ。でもささきいさおさんが脇で出てらしたのねぇ。

M:いやそれがささき氏は高麗屋さんと小学校の同級生、つまり僕の大先輩なんですよお二方とも。

F:あら、本当に。まあウチの学校とは姉妹校みたいなものだったけど。

M:ところがささき氏のお家は高位高官の方が多いんで、それを目指して中学でМ蔵を受験したんだそうで。ところがその後スカウトされてロカビリー歌手としてブレイクし、結局大学も行かなかったと。

F:まあどう転ぶか分からないのが人生ですものね。その「ロミオ〜」はどうだったの?さすがのアナタでも半世紀前の舞台の細部までは覚えてないでしょうかしらね。

M:まあね、でもキャストはかなり覚えてますよ。ロレンス神父に金子信雄、マーキュシオに東野英心(孝彦)、ジュリエットの乳母に山谷初男、脇で阿藤快(海)…皆さん故人でやっぱり半世紀の流れですね。あと冒頭キャピュレットとモンタギュー両家の乱闘場面のダイナミックさもね。蜷川演出の特長だったんでしょう。

F:そうね、でも高麗屋さんと中野さんにささきさんがお元気だから…中野さんはずいぶん観てないけど。残念かしら?

M:別に…何年頃だったかなぁ、一度だけ六本木ですれ違ったんですよ…失礼だけどガッカリしました。やっぱりボクにはお姉様しかいないと。

F:あらまたぁ…それっていつ頃?そんなことを言っていながらずいぶんつまみ食いしてたのはその頃から分かってましたのよ。

M:あれは’88〜9年前後だったなぁ、誰かさんがお父様の反対を振り切りお家を出て、あの方と暮らしてらしたまさにその頃ですよ。

F:…またズルいんだからあの頃のことを持ち出して。それももとはと言えば誰かさんがいつまでも煮えきらないからだったんでしょ。ちょうどその頃、大学時代の指導教官だったあの人と偶然再会して...父はアナタにマスオさんになって欲しがってたけど、貴方がお母様を放ったらかしに出来るわけもないのは分かってたし。それで思い詰めてたら彼が…。

(承前)