「さらば友よ」(’68年仏・伊)と「続・個人教授」(’76年仏)〜En noir et blanc?

Masculin:さて問題です。この二本の関連は?

Féminin:…えっ?何いきなり…ウ~ン、キャストもかぶってないし制作年も少し隔たってるし…ダメ、降参。

M:何だかあっさりしてるなぁ、原作者とプロデューサーが同じなんですよ。

F:ふ~ん、だって内容も全然違うじゃない…外人部隊帰りの主役二人が巻き込まれるクライムサスペンスと第二次大戦下の美しい修道女と少年の悲恋もの…あら、昔知り合ったばかりの私たちみたいなのね、十歳は離れてなかったけど。

M:年の差もだけど、誰かさんは汚れなき修道女から程遠かったでしょ?一見楚々たる深窓の令嬢なのに年下のボクを思うがままにあしらって(笑)。

F:あらウソばっかり、ナマイキな男の子にさんざん振り回されたのは私の方だわ…それはともかく「さらば〜」の原作はセバスティアン・ジャプリゾ、「続・個人〜」はジャン=バティスト・ロッシ…同じ人なの?

M:えぇ、戦後ソルボンヌを出て本名のロッシで発表したのが「続・個人〜」の原作「不幸な出発(Les mal partis)」、その後エンターテイメントに転じてジャプリゾの筆名で発表したのが「さらば〜」の原作。さらに続けて同じチャールズ・ブロンソン出演の「雨の訪問者」など幾つもの映画化作品を発表し、アンテラリエ賞やドゥ・マゴ賞なども受けすっかり人気作家に。ちなみにジャプリゾは本名のパラフレーズだそうで。

F:ふ~ん、自分の若い頃の体験を元にした純文学作品でデビューして、やがてエンタメにってどこの国でも共通なのね…日本なら阿佐田哲也さんが一緒だわ。純文学はやっぱり本名の色川武大で書いて。

M:あと「さらば〜」の監督ジャン・エルマンも後に本名ジャン・ヴォートラン名義で作家としてゴンクール賞やドゥ・マゴ賞を受けてるんです。まあ日本では逆に文学賞貰って自分で映画化した人が何人かいたけど…。

F:皆さんあんまり成功したとは思えなかったわね。で、プロデューサーは?

M:セルジュ・シルベルマンて知る人ぞ知る大プロデューサーなんですよ。ルイス・ブニュエルの諸作にジャン=ジャック・ベネックス「ディーバ」と黒澤明「乱」大島渚「マックス・モン・アムール」なども。川喜多賞も受けてます。で、ジャプリゾ名義の「さらば〜」などでヒットを飛ばしたロッシがそのいわば論功行賞としてデビュー作で自伝的内容の「不幸な出発」をシルベルマンがプロデュースし、自らの脚本・監督で満を持して発表したのが「続・個人教授」というわけで。

F:やっぱり若い頃の想い出が詰まったデビュー作だから思い入れが強くって、自分でメガホンまで取ったんでしょうね。内容も悪くないと思うわ。少し前のアメリカには似た設定の「おもいでの夏」があったけど、どっちも原作者の実体験を大切に生かしたようで…でもこれは邦題が最悪ね、考えられる限り。せっかくの内容を台無しにしてるとしか。

M:そうですねぇ、オリジナルの「個人教授」とは年上の美しい女性と少年て以外、時代設定も含めて共通点は皆無だし。二匹目のドジョウを狙った配給元の安易さが仇になったとしか。

F:ねぇ、男のひとって若い頃の想い出を大事に取っておきたいって気持ちは万国共通なのね、誰かさんもそんな気持ちをずっと抱きながら私とお付き合いしてくださってるのかしら?

M:さあ、そんな素敵な想い出はとっくに色褪せて、今や単なる惰性なんじゃないのかなぁ…。

F:まあおっしゃいますこと。「さらば友よ」の方はやっぱりアラン・ドロンブロンソンの組み合わせが化学反応を起こしたようなものね。この少し前の「冒険者たち」もドロンといかついリノ・ヴァンチュラで成功して。そういう組み合わせでドロンの方も生きるって気づいたんでしょうね。

M:ブロンソンもこの時代にクリント・イーストウッドリー・ヴァン・クリーフマカロニウェスタンでスターダムにのし上がったから、よし俺もひとつヨーロッパでって野心があったんでしょうね。結果前の二人同様、一枚看板でハリウッドに凱旋してさらには日本で「ウ~ン、マ○ダム!」と。

F:ドロンも「ダ○バン、セレレガンス・ドゥ・ロム・モデルヌ!」だったわね…あっ、分かった!タイトルの"noir(黒)"は「さらば友よ」、"blanc(白)"は「続・個人教授」なのね…。

(承前)