臨終までの一時間に聴く音楽。

 …などといきなり穏やかでもないタイトルだが、還暦過ぎたこの数年来入退院を繰り返しており、いわゆる三大疾病のうちの二つに立て続けに罹患したこともあって明確に告知を受けてはいないものの、残り時間はさほど長くないものと腹を括ってはいるのである。

 となると仕舞い支度などに自然気持ちが向くのだが、幸か不幸か先年から忌まわしき断捨離の嵐に見舞われ、蔵書の大半は失ったものの数千枚のCDは死守したので折りに触れ表題のようなよしなしごとを思い浮かべていたのだった。

 巷間、自身の葬儀の場で流して欲しい音楽を話題にしたがる御仁は少なくないようだが、葬祭なぞ無用の長物と考えている当方にはおよそ関心の無い話で…第一、棺の中の当人の耳になど届くわけもあらばこそなのだから。

 だとすれば未だ聴力や思考力が保たれていればの話だが、今際の際に聴くべき音楽の考察の方がよほど現実的であるというもの。また長大な曲だと当方の命脈が保たないかも知れないので、概ね10分以内の作品と楽章に限った。というわけで以下。

 J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調BWV1008〜サラバンド/ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)

 モーツァルトクラリネット協奏曲イ長調K.622〜第3楽章 ロンド アレグロ/アルフレードプリンツ(クラリネット)カール・ベーム指揮ウィーン・フィル

 ベートーヴェン弦楽四重奏曲第16番ヘ長調Op.135〜第3楽章 レント アッサイ/アルバン・ベルク弦楽四重奏団

 シューベルト:「楽に寄す」Op.88−4 D.547/フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール)フーベルト・ギーゼン(ピアノ)

 マーラー:リュッケルトによる歌曲集より「我はこの世に忘られて」/キャスリーン・フェリア(コントラルト)ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィル

 ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲/ピエール・モントゥー指揮ロンドン交響楽団

 以上、演奏者も含めほぼ確定で。作曲家の生年順であるが、この順番で全てを聴いた後に倏忽(しゅっこつ)として旅立ちたいものでありまする、呵々…。

(Fin)