「幸福の黄色いハンカチ」は名作か?

Masculin:というわけで、どう思います?

Féminin:…なぁに、出し抜けに。まあお互い山田洋次監督の作品については是々非々だったわよね。「男はつらいよ」シリーズについても。

M:そうですね。「馬鹿が戦車でやって来る」なんかは掛け値なしの秀作と思ってますけど寅さんについてはまた改めてってことで、今日たまたまその「幸福の黄色いハンカチ」のワンシーンを思い出すようなことがあったんですよ。

F:今日はまたS路加国際病院の外来診察だったのよね。それからまた隣のタワーの調剤薬局に寄って…そうだ、また先月と同じく薬を貰ってすぐに一階下のとんかつW幸に寄って、通し営業なのを良いことにまだ日の高いうちから牡蠣フライでビール呑んだんでしょ、シーズン終わり間近だし。

M:ハハご明察。まあ次のシーズンとなるとこの秋以降だから、果たしてその頃まで僕自身がそれを愉しめる状態でいられるかどうか不明ですしね…。

F:…またそんなことを。で、どこを思い出したのかしら…アッ、分かったわ。高倉健さんが網走駅前の食堂でビールを呑むシーンでしょ?

M:これまたご明察。いや牡蠣フライと一緒に頼んだビールが先に来てゆっくり始めたんですけど、その一杯目を注いで口元に持っていった瞬間に映画で刑期を終え出所した健さんが食堂でまずビールを注文し、注がれたのを口に運ぶ前に「醤油ラーメンとカツ丼」とやや慌ただしく告げてビールのグラスを両手で押しいただくようにあおる名場面を。

F:もう呆れるわねぇ、だってあの映画の健さんの役は六年の懲役を終えて出所してから初めてあのシーンでビールを口にするんでしょ?その心情を表現するために健さんは断食までして撮影に臨んだって言うのに比べ、アナタなんかどうせ昨夜も呑んだんでしょうからせいぜい半日の我慢じゃない。病気してから丸二年は断酒したとは言っても今や元の木阿弥だし、思い出すだけで失礼だわ。そんなことより、これは名作なの、名作じゃないの?アナタの考えでは。

M:何かとせっかちだなぁ、最近の誰かさんは。昔の才気煥発ながらおっとり優雅な物腰はいずこへやらで…まあ名作なんでしょ、世間一般がそう評するなら。

F:またそういうことを…寅さんシリーズだって若い頃は洟も引っ掛けなかったのに最近は違うんでしょ。中年過ぎてからハマった人は少なくないらしいけど、アナタもその例に漏れないのね。

M:まあ全部が秀作とは言いませんけど平均点の高さはさすがだし、何本かは文句なしの出来ですよね。でも山田洋次監督が健さんを起用したこれと「遙かなる山の呼び声」についてはいささか保留が…。

F:あら、どういう点がかしら。

M:つまり監督の求める主人公像と、健さんの演じたい主人公像があまりにも合致し過ぎているような気がするんですよ、ぜいたくな不満ですけど。

F:ウ~ン、確かにね…そのふたりの間で何らかの相克があって、思わぬ化学反応を示した名作って少なくないから…それでももしかしたら武田鉄矢さんの存在が、その予定調和に一種苦味みたいな捻った味わいを加えてるんじゃない?

M:おっしゃるとおりで。あれがもっといかにものっぺりした奴だったら作品全体が何とも締まりの無い出来だったでしょうね。だいぶ彼奴も絞られたらしいけど泥だらけのじゃがいもをキレイに洗ったんですよ、監督が。その後の鉄矢を観ると。

F:桃井かおりさんについても似たようなことが言えるのかしらね…でもあの人は良くも悪くもずっと同じままなのかも…「アァタシはね〜」って。最近出てたどこかの製薬会社のCMでも相変わらず一体何しゃべってるのかさっぱり分からなかったし。

M:その会社のCMだとテキトー男が「(コロナ禍で)手を洗うようになった…今までほとんど一週間に一回しか」なんてほざいてるのもありましたね…テキトーどころかキタネー男だったんなぁ…。話を戻すと、これが公開された年は第一回日本アカデミー賞とかいう茶番…いや映画界の一大イヴェントが行われた年で、当然のように各賞総ナメで。

F:その授賞式で作品賞のプレゼンターとして壇上に上がった今日出海さんが「こうふくの〜」って作品名を間違えたのだけは良く覚えてるの。

(承前)