銀座牡蠣フライ行脚は今や…。

Masculin:💢ねぇ、ちょっと聞いてくださいませ。

Féminin:ハイハイ、何でございましょうか旦那様…でもこのところお腹立ちが続いてるわね。こないだも言ったけど今や半分くらいしか働いてない心臓に良くないんじゃないかしら。

M:ですからなるべく平穏無事に過ごそうと思ってるのに、火の粉が降りかかってくるんですよ…ほら昨日はS路加国際病院の外来診療で。

F:もう日常の一部ね、また採血心電図問診のセットで。それでお薬貰って解放されたらいざビール!なんでしょ、昔っから年一の健康診断の日は同じだったんだから…丸二年間の禁酒は遠い昔だわ。

M:いや、ハハァ…まぁそれだけが愉しみで、ご存知のようにもう足腰がダメですから、なるべく近間でってわけで病院からタワーブリッジ渡ってS路加タワー二階の薬局で大量の薬を貰い、そのままエレベーターで一階のとんかつW幸へ。チェーン店だけど中休みなしなんで。

F:それくらいの時間なら空いてるしアナタみたいなうるさがたでものんびり出来るしね。で?

M:いちいちもう…まああそこも母の在宅介護をしてる頃からちょっとした半端な時間に良く使わせてもらったんで…で…そうそう、まだ母が車椅子で外出出来た頃、あそこはいち早くバリアフリーだったんでしばしば寄ってて、ものすごく良く動いて気のつくKさんてバイトの娘がいたんですよ。体育系の大学と言ってたけど…どうしてるかなぁ。

F:…またアナタの甘酸っぱい思い出話にお付き合いするのは願い下げなんですけど…第一その頃だっておいくつ?しかもお母様の車椅子押してたのに。ハイ、軌道修正して。

M:…年末にも寄ったんですけどランチタイムの終わり頃に入り、季節の牡蠣フライ単品でビールを。ほら、昔なら銀座のR瓦亭本店まで足を伸ばしたけど今や。

F:うん思い出すわ、R瓦亭だとまず貴方は牡蠣フライを一皿、私は小海老フライで牡蠣をひとつお裾分けで、それから牡蠣フライをもう一皿でまたお裾分けとハヤシライスをシェアして。

M:とまあそれでしばしくつろいでたんですけど、そこに現れ出たる妙齢?の女性お二人。

F:わざわざ妙齢ってことは違うってことね。

M:えぇ、ひとりはアラフィフ、もうひとりは「おばちゃん」と呼ばれてたからそういうことで。その二人がスタッフの「どちらでもどうぞ」の声に従い入って来て、僕のいるテーブルを見てあろうことかアラフィフが聞こえよがしに

「いつもここなんだけど…いいわ他で」ですと。

F:…なあにそれ?もうお客さんもまばらなんでしょ。そりゃあそのひとがいつも座るのはアナタのいた席なのかも知れないけど予約するようなお店でもなし…アナタがカチンと来たのは良く分かるわ。

M:それも独りごちるというよりはっきり僕にも聞こえるほどの声でしたからね。そこに座ってる人間の耳に届いたらどんな気持ちにさせるかなんて…。

F:そんな想像力の一かけらもないひとなんでしょうねぇ…たった一言で見ず知らずのひとを不愉快にさせるなんて、ある意味大した才能の持ち主なのかも。せっかくの診察後のプレシャスタイムなのにご愁傷さま。でも今のアナタだから柳に風だったのね…昔だったらきっと啖呵切っちゃったかも(笑)。

M:ま、それはともかく十年と少し前、母のケアの合間を見て銀座牡蠣フライ行脚を敢行したのご存知でしょ?

F:うん、お付き合いしようかなぁと思ったけど、もしかしてひとりで慌ただしく回るのもアナタの息抜きに向いてるのかと…。

M:さすがのお姉様のお気遣いで。確かに慌ただしいけどそれゆえに愉しいってこともあるんですよね…忙中閑ありで。今はもうそんなマネは到底出来ないけど。で、その時点でも不動の第1位はさっきも出たR瓦亭本店で2位は2丁目のKつ銀。

F:R瓦亭は中高温の油で表面はカリッとサクッの中間、中はレア感を保ったジューシーさで、タルタルソースもマヨネーズからの100%自家製だし他の追随を許さないわね。その昔パリの三つ星ラ○ブロワジーのB・パ○ーシェフが唸ったのももっともだわ。Kつ銀は2個抱き合わせの俵形であの系統のお店の胡麻油を配合した比較的低温でじっくり揚げたやっぱり逸品だったわ。

M:で、それ以外の注目店を週一身体の比較的空く日に回ったんですけど、結果残ったのが銀座から一歩外れるけど有楽町国際フォーラムのレ○ンテ、3丁目S州屋銀座本店、あとは8丁目レストランO山、この三店。

F:レ○ンテは一緒に行ったわね、まだ駅前にあった頃から。フライもだけど的矢の生牡蠣が気軽に食べられるのも貴重だったわ…あら、R瓦亭とS州屋を除いたお店はもう。

M:そうなんですよ、聞くところではS州屋も支店を畳んで本店一本に絞ったとかで。インバウンド需要とかで資本系のわけの分からない店がやたらと増える一方で、こういった店が次々と姿を消しているのはもう言葉を失うとしか。

F:「行く川の流れは絶えずして…」なのかしらね…。

 

(Fin)