「パリで一緒に」(’63年米)〜シズル感がいささか足りませぬ…。

Masculin:「リメイク」について…なんて大げさですけど。

Féminin:…って、これはジュリアン・デュヴィヴィエアンリエットの巴里祭」(’52年仏)のリメイクよね。まあフランス映画のハリウッドリメイクって沢山あるけど…。

M:…けどって、何か保留条件付きみたいですね。確かに成功したとは言い難いのが大半で…「恐怖の報酬」「勝手にしやがれ」「赤ちゃんに乾杯!」「最強のふたり」等々。残念ながら手間とコストをかければ上手く行くとは。

F:何だかどれもブレス鶏のロティ(ロースト)をケン○ッキーフライドチキンに仕立て直したみたいよね…それともタルト・タタンをパイシートで包んでアップルパイに文字通り焼き直したとか。また食いしん坊って笑われちゃいますけど。

M:えぇ、百も承知ですから。でもかなり昔、僕が牛スネ肉と野菜をじっくり煮込んだポトフーをご馳走した翌日、残りのスープで一から調合したスパイスと自家製のルーを伸ばしたビーフカレーもお気に召しましたでしょ?

F:うん、あれはポトフーもだったけどとっても美味しかったわ。だからやっぱりリメイクって難しいのね。でも黒澤明「用心棒」をマカロニ・ウエスタンでリメイクしたセルジオ・レオーネ「荒野の用心棒」やハリウッドでも「七人の侍」のジョン・スタージェス「荒野の七人」は悪くないんじゃない?まあお刺身をカルパッチョカリフォルニアロールにしたようなものかもだけど。

M:確かにね。だから映画同様に日本料理はあくまで素材としてリメイクするのに向いてるけど、フランス料理はそのエスプリごとリメイクするには不向きってことかなぁ…前置きが長くなりましたけど、これを最初にご覧になったのは?

F:…確か’72年の夏、リヴァイヴァルのロードショーだったわ。大学に上がった年にボーイフレンドと…映画の後は銀座みゆき通りのキャンドルで一緒にチキンバスケット食べて確か地下鉄の駅でお別れしてそれっきりで名前も顔も覚えてないわ。貴方は?

M:…気の毒だなぁ、そのBFも。高い競争率かいくぐってようやくデートにこぎつけたってのに、お姉様の財布代わりであっさりポイとはチキンの骨同然のあしらいで…えぇ、僕も同じく丸の内ピカデリーでしたね。ほらその前年にやっぱりリヴァイヴァルで「おしゃれ泥棒」を観てオードリーのとりこになり、名画座で「ローマの休日」「ティファニーで朝食を」「シャレード」「いつも2人で」と追っかけた後だから。

F:前にも言ってたけど「ぴあ」なんかの情報誌も無い頃、新聞の映画演劇欄を見て名画座巡りをしたんでしょ。大した情熱ですこと。でも分かるわ。私も小学生の時、両親と一緒に「マイ・フェア・レディ」をロードショーで観て、何て素敵なひとなんでしょうって思ったもの。

M:そうでしょう、だからお分かりでしょ、まだお姉様と出逢う前の僕がたちどころにオードリーのとりこになったのは。

F:ふ~ん、でもその翌年くらいよね。初対面の年上の私に熱烈にアプローチしてきたのは…たまたま立ち寄ったアナタの高校の学園祭で…まあそれから長いこと、お互いに山あり谷ありで未だにこんなお付き合いになってるのもビックリですけど。

M:まあそれはともかく、正直なところオードリーの主演作としても、これはせいぜい中の下ってとこですね。

F:あらずいぶん厳しめね…まあ仕方ないかしら。特にパリを舞台にした他の「パリの恋人」「シャレード」「おしゃれ泥棒」に比べるとね。フランス人に比べてもオードリーほどパリの似合う女優さんはいなかったけど、これは内容も少し散漫だからかしら…大人のおとぎ話としては悪くないんでしょうけど。

M:まあオードリーの主演作品って、多かれ少なかれ大人のおとぎ話ですからね…極めて良質な。他はスタンリー・ドーネンが二作にウィリアム・ワイラーですけど、やっぱりどちらもオードリーの魅力を知り尽くした名匠ですよね。これのリチャード・クワインキム・ノヴァクとの「逢う時はいつも他人」や「媚薬」なんかは良い出来だったけど、これはメタフィクション的な脚本のあえて言うなら散漫さにも足を引っ張られた感が。あとパリの風情を捉える手腕においてもワイラーやドーネンには到底及ぶべくもなかったと。

F:仕掛けは多彩なのに肝心な点が不足ね。ウィリアム・ホールデンはオードリーと主演級で二度共演したただ一人の俳優だけど、「麗しのサブリナ」より渋さが加わって悪くないのにトニー・カーティス以下カメオ出演ばかり多彩で味のある脇役が少ないし、音楽も他のパリを舞台にしたオードリー作品のガーシュウィンヘンリー・マンシーニジョン・ウィリアムズと比べるまでもないわ。

M:これと「シャレード」は続けざまにパリで撮られたんで、両方に起用されたキャメラのチャールズ・ラングはさすがにオードリーの魅力を知り尽くしてますけどね。その間オードリーは存分にパリでの暮らしを愉しんだそうですけど、これについては残念ながら作品の出来に結びつかなかったのかなぁ。

F:原題は"Paris When it Sizzles(焼けつきそうなパリ)"だけど、作品としては残念ながら"Paris When it Freezes(凍りつきそうなパリ)"だったのかしらね…。

(Fin)