"Émincée de côte de porc sautée, sauce Japonaise au gingembre"

Féminin:…って何?訳すと「豚ロース肉の薄切りソテー和風ソース生姜風味」…つまり豚肉の生姜焼のことかしら…。

Masculin:さすがお姉様、ご明察。いや家庭でも街の定食屋でも定番のおかずですけど、フレンチの基本的な技法できっちり作るとこう呼んだ方が相応しい仕上がりになるんですよ。それで少しばかり気取ってみた次第で…。

F:ふ~ん、そう言えばずいぶん貴方には腕をふるっていただいたけど、生姜焼ってご馳走になった覚えはないわね…まぁワタシごときでも家で長年作ってたし、父もあの人も特に何も文句言わずに食べてくれてたから…去年だった?タモリさんのレシピが話題になってたわね。

M:えぇ、まあ普通に正統的なレシピでしたけど、ここはひとつボク流のルセットをいかがです?難易度低めですから。

F:うん、お願いしますわ♡。

M:まずは氏素性のはっきりした豚肉のロースか肩ロースの3mm厚を用意して。バラ肉は脂が多過ぎるし赤身部分も固いからNG。これが大事ですけど肉が反り返らないようきちんと背脂と赤身の間を筋切りし、片面だけ軽くアセゾネ(塩胡椒)して粉を両面に薄くはたきます。

F:あら、タレには漬け込まないの?

M:薄切り肉を漬け込むと時間にもよりますけど味がしみ込みすぎたり固くなったりしますから。タレは本味醂濃口醤油を等量で砂糖はひとつまみも使いません。生姜は好みですけど僕はすりおろしよりブリュノワーズ=1〜2mmの極小角切りにします。その方が食感も残るから。

F:タレは合わせるだけ?

M:そこも一手間、ソースパンか雪平鍋で本味醂を煮立てアルコールを飛ばしてから醤油を合わせて下さい。

F:いよいよ焼きね、スィル・ヴ・プレ、ムスュウ。

M:フライパンに太白胡麻油を熱し、肉が重なり合わないよう両面から7割方火を通して一旦取り出します。僕は入れないけど玉葱が欲しければ繊維と直角に切った5mm厚のを残った油でソテーしてこれも取り出して。フライパンに残った油を切り日本酒でデグラッセし生姜を入れタレを加え、煮えばなに肉と玉葱を戻しフライパンをゆすって良く絡め、仕上げに焙煎胡麻油をさっとかけ回してOK。

F:あっという間の完成だわ。仕上げを御覧じろで盛りつけね。

M:その前にガルニ=付け合わせですけど、シンプルなポテトサラダとちぎったレタス程度で。白髪葱を天盛りにし、粉山椒か一味を適量振りかけて…御飯のおかずでなく、あくまでこれ一皿で完成した一品としての仕上げですから味つけも控え目ですし、我々くらいの年齢でもあっさり食べられますよ。

F:メルスィー・ボクー、シェフ。お酒は何が良いかしら?

M:しっかりした山廃純米か生酛造りの日本酒、スコッチのハイボールも良いですね。ついでにポテトサラダもいかが?昔お教えしたけど。

F:うん、改めてお願い。

M:と言っても何の変哲もないオーソドックスなのですけど…じゃが芋は男爵とメイクイーンの二種を用意し、皮付きのまままるごと蒸します。玉葱は繊維に沿って薄切りにして塩もみしてからさらし、水気をしっかり絞ります。蒸し上がったら男爵はマッシュ、メイクイーンは1〜2cmのデ(さいの目)に切り食感に変化を付け、熱いうちにヴィネグレットで下味をつけます…これがコツでT国ホテルのМ上グランシェフからの直伝です。

F:他のお野菜は?

M:人参、胡瓜とお好みですけど、僕はさっきの玉葱とパセリを刻み込むくらいで。完全に冷めたらマヨネーズかサワークリームで仕上げしてボナペティ!

(Fin)