向田邦子作「阿修羅のごとく」〜阿修羅のように、なるなかれ?

Masculin:これ、覚えておいででしょ?

Féminin:うん、オンエア当時も観たし再放送もね。あの頃の向田邦子さんのドラマは欠かさなかったわ…まさかあんなに早く旅立たれるなんて…。

M:それで今日はこれの母親役の大路三千緒さんの祥月命日なんですよ、三年前に満100歳で長逝されて。

F:そう…あら、ウチの父と同い年でらしたのね。大正一ケタだわ。

M:それで少し前に再放送で観てて、ちょっと気になったことが…。

F:また重箱の隅かしら?ハイハイ。

M:いやあんまりつつくのも失礼かと思うんですけど…女性のお年のことなんで…制作当時大路さんは還暦の手前で、四姉妹の母親の設定年齢ちょうどくらいかと。

F:そうね、定年少し前の父と一緒に観てたから…それで?

M:ところがその四姉妹の三女いしだあゆみさんは三十路前半、四女風吹ジュンさんは二十代後半でこれまた概ねピタリで。

F:すると後のお二人よね…。

M:えぇ、これがビックリで、次女の八千草薫さんは四十代の終わりだから設定年齢よりかなり上、そして長女の加藤治子さんの実年齢は母親の大路さんと二歳しか違わないんですよ…。

F:…ふ~ん、それはほんとにビックリねぇ。まあ八千草さんはお年とともに娘役から母親役と移ってらしたけど、加藤さんて向田作品では懐の深い母親役が多かったから、ここでのある意味生々しい長女の役って珍しい気もしたけど…それじゃあ本当のお年より二十歳くらいお若い役を違和感なく演じてらしたのねぇ…あら、貴方のお母様も加藤さんと同い年じゃなかった?

M:そうだったんですよ。それで亡くなった年も同じで。

F:お母様もやっぱりお年よりもずっとお若く見えたわね…ねぇ、男優陣も多士済済だけど、向田作品の男のひとって、おしなべて女のひとの手のひらで踊ってるような気がしないかしら。

M:…ウ~ン、確かにそうかも知れませんね。ここでも佐分利信菅原謙次緒形拳、宇崎竜童、深水三章…まあ女のうちに潜む業みたいなものを描き出すってテーマだから当然かもだけど、「あ・うん」「寺内貫太郎一家」僕の大好きな「冬の運動会」と共通してるかも。それからテーマ曲の「ジェッディン・デデン(祖父も父も)」ってメフテル(トルコの軍楽)はまた抜群の効果ですね。一種の異化効果かもだけど大成功と思いますよ。

F:十何年か後で同じ曲を同じタイトルバックで臆面もなく使ってた映画があったけど、もう情けない限りね。既成の曲が効果的に使われたら、パロディを除いてもう禁じ手だって考えないのかしら、そういう制作者は。最近はCMでもドビュッシーの「月の光」が流行ってると見たらもうあちこちで際限なく…あら、いけない、こんなことで怒ってるとワタシも阿修羅のようになっちゃうわ…。

 

(承前)