"What’new?"〜「何かいいことないか子猫チャン」(’65年英・仏・米)

Masculin:これは何か変わった思い出のある一本なんですって?

Féminin:…うん、そうなの。あれは小学六年だったわ、母に連れられてこれのかかってる映画館に…。

M:えぇ、お母様とご一緒に?そりゃまた…どんな映画かご存知だったんですか。

F:それが全然知らなかったらしいの…タイトルだけ見てディズニーかどこかの子供向け作品だと思い込んでたらしくって。

M:ふ~ん、それじゃあさぞやビックリなさったでしょうねきっと。

F:うん、始まって何分もしないうちに突然「あら用事思い出しちゃったわ、帰りましょ!」って手を引かれ外に連れ出されて、帰り道も家に着いてからも映画のことはひとっ言も触れずじまい。だからずっとあれは一体どんな映画だったのかなぁと気になってて…。

M:へぇ、でもいたいけな娘を連れて入ったらこれだったんだから、お母様も啞然呆然とされたんだろうなぁ…確かに紛らわしい邦題ではあるけどオープニングタイトルからもう子供向けとは思えないし…普段からそんなにそそっかしくてらしたんですか?

F:娘としてはまあまあ普通にしっかりしてる母親だと思ってたわ。でも父に言わせると、若い頃はかなりの天然だったんですって、意外にもウチのママは…。

M:なるほどねぇ、そう言えば昔からお姉様も時々高貴で楚々とした見かけによらぬとっ散らかった真似をして下さいましたからね(笑)、紛れもなく血を分けた母子だったんだ、やっぱり。

F:えぇ何よヒドいわねぇ、ずっとそんな風に思ってたの?ほんと年下なのにナマイキだったんだから…ともかく帰ってからもあれは一体どんな映画だったのかしらって気にはなってたんだけど、すぐに忘れて思い出したのは大学一年の初オンエアの時。もう母はいなかったけど…。

M:…そうでしたか。じゃあ少し辛い思い出にもつながるかなぁ。

F:うぅん、大丈夫。だって一緒にはほとんど観ていないんですもの。でも改めて観て、良くも悪くもこんなに猥雑な映画だとは思わなかったわ(笑)。

M:僕も初観は同じで高一だったなぁ、荻昌弘さんの月曜ロードショーで。ところがすぐ後で水野晴郎さんの水曜ロードショーで「007/カジノ・ロワイヤル」(’67年英・米)もオンエアされ、キャストもかぶってるし何やら関係がと思ってたらプロデューサーが同じだったんですね、チャールズ・K・フェルドマン。

F:ある意味姉妹作だったのかしら…これがウッディ・アレンのハリウッドデビューだったんですってね。「カジノ〜」にも関わって、それからハリウッドとは一線を引くんだけど。

M:ほら、深夜のセーヌ河畔でひとり誕生日のディネをしつらえてるシーンがあるでしょ。好きな場面なんですよ、都会の孤独者ってアレンのその後のテーマの原型みたいで。

F:私はやっぱりピーター・オトゥールだわ。もう「アラビアのロレンス」とか重厚な作品は観てたけど、オードリー・ヘプバーンとの「おしゃれ泥棒」もリヴァイヴァルで観てて軽いお芝居もお上手だって知ってたんで。ピーター・セラーズはいかにもって怪演ね。

M:ビリー・ワイルダーの隠れた秀作で「シャーロック・ホームズの冒険」てありますでしょ。企画段階ではホームズにオトゥール、ワトソンにセラーズのWピーターが予定されてたとか。

F:実現してたらさぞや…ね。女優さんたちはいかにも豪華だけど顔見せみたいで勿体ないわ。特にロミー・シュナイダーはこういうコメディは柄に合ってないのか浮いちゃってるみたいで。

M:そう言えばキャプシーヌが出てるでしょ。まあプロデューサーの推しだったらしいけど、ちょっとビックリの妙な話があるんですよ。

F:「ピンクの豹」でもセラーズのクルーゾー警部の奥さんを演じたひとね、キリッとした素敵な女優さんだったわ…。

M:いやそれが「第七の暁」で共演したわが国の誇る大俳優の丹波哲郎氏によると、実はあのひと男性だったんだと…。

F:えぇ〜?そんなまさか…丹波さんの思い込みか何かの間違いじゃ…。

M:いやかつて某民放のトーク番組でキッパリおっしゃってたんです、「あれはなぁ、男だったんだよ」って…司会のF舘I知郎はキャプシーヌを全く知らなかったらしくキョトンとしてましたけどボクはTVの前でのけぞってましたね。

F:ウ~ン、そりゃあまあハリウッドっていろんなひとがいたんでしょうけど…。

M:他の生放送の人気公開番組でも丹波氏は同じことをおっしゃったそうなんですけど、新宿のスタジオを埋め尽くした客席の有象無象は無反応だったとか…ただ何故かご本人が妙に自信たっぷりだったんで。まあ同世代で同名のトランスジェンダーのダンサーがいたとかで、混同してたとかの話もあるんですけど。

F:去年亡くなったけどバート・バカラックの音楽も良いわ。主題歌だけでなく映画全体の音楽を担当したのは最初なんですってね。でも昔はおバカ作品みたいに言われてたけど、最近になって再評価されてるみたいだし結構なことだわ。

(Fin)