「目が散る」のは本当だった?

Féminin:ねぇ、聞いた?S県R市でともに三十代の夫にメチルアルコール入りの飲み物を飲ませた妻が逮捕されたんですって。

Masculin:えぇ聞きましたけどね、いや小学4〜5年の担任だったE先生が良く話してらしたんですけど、理科の実験に使うメタノールつまりメチルアルコールは間違っても呑んじゃいけない、目が散るつまり失明してしまうからなんてね…あとその先生のお話で良く覚えてるのは、スタンダール赤と黒」で、それぞれの色が何を象徴しているかということで。

F:シャレのお好きな先生でらしたのね、またスタンダリアンでもいらしたのかしら。でも小4なら10歳くらいでしょ。お互い様ですけどカトリックの一貫校のその年で先生のお酒のお話覚えてるアナタにも困ったものだわ…スタンダールはまだしも。そういうのって「栴檀は双葉より芳し」とはちょっと違うわよね…ウチの父も良く話してたの、同世代で戦後の深刻な物不足の頃に闇市なんかで手に入れた怪しげな密造ウィスキーを我慢出来ずに呑んで亡くなった知り合いがいたって。

M:工場から持ち出したメタノールを希釈して香りと色を付けたような粗悪品どころか命取りの代物だったんでしょうね。だからバクダンとも呼ばれたんだろうけど。今回の事件も被害者の夫は生命に別状はないものの視力が著しく低下したとか。それでまた興味深いのは妻がメタノールの混入は認めてるものの殺意は否認しているだけでなく、夫婦とも特にお互いの間にトラブルは無かったと供述しているって…。

F:ていうことはどういうことなのかしらね…一種のプレイとか?

M:ちょっと、お姉様らしくもないはしたなさだなぁ。そんな命懸けの過激なプレイもないもんでしょ、視力を低下させるなら目隠しでもすれば良いだけだし。

F:あら、良くご存知ね、昔っからそんなことしたこともその逆にされた覚えもないけど(笑)。

M:まったくもう…しばらくはお邪魔した時に出されるアペリティフにも気をつけないとなぁ…まあもう少し続報を待ちたいですね?

(承前)