「テキサスの五人の仲間」(’66米)〜エイプリルフールに、この一本?

Masculin:これをわが家でご覧いただいたのは、もう四半世紀ほど昔、まだVHSビデオの頃で。憶えてらっしゃいます?

Féminin:うん、そうだったわね…あら、ちょうど今日…4月1日じゃなかった?

M:そうなんですよ、いやその日にこそ観ていただきたかった映画だったんで。また公開時、丸谷才一氏がまさにその「エイプリルフール!」って題で批評を書いてらして。だけどあの晩、ラスト直前のお姉様のお顔ったらなかったですね。名うての美女がポカンと口を開け、あんなにも呆気にとられて(笑)。それまでの、いやその後の長いお付き合いでもおよそ見たことのなかった無防備さだったからなぁ。

F:ウ~ン、だってメインストーリーにはジーンとくる一応の大団円があって、それからホロリとさせるエピローグが続いて、まあ撃ち合いもないし誰も死なないけど役者は揃ってて良く出来たハートウォーミングなコメディ西部劇だったわねって思ってエンドロールを待っていたらまさかの…あら、いけない、これ以上はネタバレになるから。でもヒドイわ、こっそりソファの隣でワタシの様子をうかがってたのね。家に帰って、まだ元気だったウチの父に話したら

「あぁ、あれねぇ良く覚えてるよ。そうか、彼にしてやられたなぁ」って笑ってたの。封切りで母と一緒に観て、二人揃ってワタシ同様何が起きたのかって客席で口をポカンだったんですって。でも映画館なら明るくなるまで時間があるし、呆気にとられてるのは二人を含めて場内のお客さん全てですものね。自分だけ知ってて横で様子をうかがってるのはズルいわよ。

M:ハッハ、すみません。そもそも僕も初めて観たのは高校の頃に淀川長治氏の「日曜洋画劇場」でだったんですよ。何の予備知識もなく、なかなかの豪華キャストだなぁと思って。そしたらオープニング解説では深刻な顔の淀川氏が

「…街にやって来たヘンリー・フォンダの博奕好きのお父つぁんがジョアン・ウッドワードのおっ母さんといたいけな子供が必死に止めるのも聞かず、ポーカーの大勝負に巻き込まれてしまうコワイコワ〜イお話なんですね…ハイ、また後でお会いしましょ!」とまるでホラー作品みたいな前フリで始まり、2時間弱後のエンディングでは一転満面の笑みを浮かべて

「ハイ!アナタ、見事に騙されましたね(笑)」

 確かにボクもまんまと罠にはまり呆気にとられたんだけど、でも騙される快感みたいなものを確実に味わいましたね。

F:タイトルも原題の"A Big Hand for the Little Lady"はストレートだけど、邦題の「〜五人の仲間」は年に一度のポーカーの大勝負に集まるジェイソン・ロバーズたち町の五人の名士のことなのかと思ってたら実は…ってなかなかひねりの効いたタイトルなのね。昔の配給会社の宣伝部はセンスがあったわ。最近はただカタカナにするだけで。

M:プロデューサー兼監督のフィールダー・クックはTV出身で、あの名作医療ドラマ「ベン・ケーシー」の第一話も撮ってるんですね。また音楽のデイヴィッド・ラクシンも「ベン・ケーシー」の印象的なオープニングテーマ曲の作曲者で…そう言えば先年入院した時、ストレッチャーで廊下を移動してて天井を見ながらまるで「ベン・ケーシー」のタイトルバックだなぁと思い、若い医師やナースに話してもまるで無反応でしたね。ところがその後、またまた救急搬送されてER(緊急救命室)で懲りもせずナースに同じ話をしたら「あら、私知ってます」と。訊けば定年後再雇用で同世代近くのひとでした。

F:またまたお年を感じたのね。それにしてもERでそんな昔のTVの話してるんだから本当に「のんきな患者」だわ、相変わらず。でもコン・ゲームものとしては「スティング」って名作があるけど、これもあれほど巧妙な仕掛けの連続ってわけじゃなくストレートでシンプルな造りとはいえ記憶に残る一本ね…。

(Fin)