「一安心」から一週間後の「青天の霹靂」。

Masculin:いやぁ朝一番で、こんなに驚かされるのも…。

Féminin:本当にね。みんながビックリしたあおりで栃木で震度5弱地震が起きてしまったみたいで。

M:ちょうど一週間前に「一安心」て書いたばかりで、しかも韓国での開幕戦も無事に終えた翌日にまさかこんな…。

F:思い返せば…なんて声もあるみたいだけど、まだ全体像は明らかじゃないんだし憶測でものを言うのは慎むべきでしょうね。ただ明らかなのは少なくともカリフォルニア州では違法とされていることに手を染めて、巨額の損失を出したってことよね…つくつくギャンブル依存症て怖いものだわ。そう言えば貴方っておよそギャンブルと無縁ね。競馬は大好きだけど馬券はほとんど買わないんでしょう。

M:そうですね。中学時代にスピードシンボリ有馬記念連覇を観て純粋にスポーツとしての競馬にハマったんで、それがむしろ良かったんでしょうね。大人になってからはたまに馬券買って当てたり外したりはしましたけど、ギャンブルとしてのめり込むことは皆無でした。

F:そうね、だから人と競馬のお話していても、お相手が馬券の勝ち負けのことばかり話しだすと、こっそりイヤな顔してすぐに別の話題に切り替えてたわよね。

M:麻雀も学生時代に一応覚えたけど三人も集まればこれまたイヤな奴が必ず混じるし、パチンコはあの騒音とケムリだけでアウトで。

F:ウチの父も古いお友達とたまに雀卓を囲むことがあったらしいけどそれだけ。あの人はパチンコ好きだったけどそれほどのめり込むでもなく、収支は煙草を定価でフツーにお店で買ってるようなものだよって。つまりは私の周りの殿方は皆さん人畜無害に近かったのね。

M:「呑む、打つ、買う」って言いますけど、ボクの場合は「呑む」に特化してるわけで。

F:本当かしら?「打つ」はともかく、もうひとつはかなり怪しいわねぇ…まあ昔のお話で、今はもう身体の方がついていかないんでしょうけど(笑)。

M:ゴホン、ゴホン…それはともかく、今回の件でちょっと思い出したんですよ。ほら、寅さんシリーズの第4作「新・男はつらいよ」(’70)はご覧になってます?

F:うぅん、たしか第3と第4作は山田洋次監督が脚本だけ書いてメガホンを取らなかったたのよね。だからってわけでもないけど。

M:そうですか。いやあそこでは寅次郎(渥美清)が競馬で大穴を当て、長年迷惑をかけっぱなしのおいちゃん(森川信)とおばちゃん(三崎千恵子)をねぎらうべくハワイ旅行に連れて行こうと思い立つんです。ところがかつての舎弟・登(津坂匡章)の働いてる旅行社に現金を預けたら、目がくらんだそこの社長(浜村純)が持ち逃げして…。

F:…ちょっと似ているのかしら、今度のことと。そりゃあ通訳としては普通に十分な待遇だったんでしょうけど、周りのメジャーリーガーの生活ぶりを見てるとつい目が…なんて。

M:まあ映画ではトンズラした社長のその後は描かれず、ご近所にハワイ行きを盛んに触れ回った一家が体裁悪くって自宅に籠ってたら間抜けな空き巣狙い(財津一郎)が忍び込み、その捕物騒ぎで全てが明るみに出ていたたまれなくなった寅次郎は旅に出るってお馴染みの展開なんですけどね。

F:その社長も空き巣も根っからの悪人なんかじゃなく小悪党なんでしょうね、せいぜい。でもそもそもの寅さんが旅行の資金にしようとしたのも競馬で当てたお金なんだし、それが社長の出来心と空き巣を呼び込んだって少し教訓的な意味合いもね。今回の前通訳氏がギャンブルにのめり込むきっかけが何だったかはまだ分からないけど、やっぱり"Easy come,easy go(悪銭身につかず)"なのかしらねぇ。そうそう、池波正太郎さんのお馴染み「鬼平犯科帳」にもぴったりの言葉があるわ。

「人間というやつ、遊びながらはたらく生きものさ。

 善事をおこないつつ、知らぬうちに悪事をやってのける。

 悪事をはたらきつつ、知らず識らず善事をたのしむ。これが人間だわさ。」(「鬼平犯科帳〜谷中いろは茶屋」)

M:もうひとつありますよ。

「人のこころの奥底には、おのれでさえわからぬ魔物が棲んでいるものだ。」(「同〜むかしなじみ」)

 せっせと裏金作りに精出してたどこかの政党の皆さんも思い知らされるべきですね…。

(Fin)